複数社から資料を取り寄せ、カタログを横に並べる——ここまでは誰もがやります。ところが数値を見比べた瞬間に、たいてい手が止まります。出力は同じなのに対応板厚が違う。速度の数値が桁違いに見える。どこまでが本体価格に含まれているのかわからない。
原因は、あなたの読み方ではありません。スペック表の数値は、規定の取り方がそろっていないと、そもそも比較の対象にならないからです。
この記事では、ハンディファイバーレーザー溶接機 SL-1500 / SL-2000 を扱う当社が、カタログの数値をどう読み直せば比較になるのかを、自社のスペック表を例に開いて説明します。特定のメーカーや型番の優劣を論じる記事ではありません。
結論:数値より先に「定義」を見る
比較で失敗する原因は、ほぼこの1点に集約されます。同じ名前の項目でも、測り方の前提が違えば、数値は比較できません。
| 項目 | そのまま比べると危ない理由 | そろえるべき定義 |
|---|---|---|
| 出力(W) | 定格値か、瞬間的な最大値かで意味が変わる | 定格出力/連続稼働を前提にした値か |
| 対応板厚 | 「一回の溶接厚さ」と「裏まで溶ける板厚」は別物 | どちらの規定か/材質は何か |
| 溶接スピード | 装置の上限であって、常時出る速度ではない | どの材質・板厚・品質での値か |
| 設置条件 | 電源・質量・寸法は「導入できるか」を決める | 単相か三相か/搬入経路に入るか |
| 付属・消耗品 | 同梱数が違えば本体価格の比較は成立しない | 初期同梱の本数/別売りの範囲 |
以下、5つの軸を順に見ていきます。
1. 出力(W)|同じ数字でも中身が違う
出力は最初に目が行く項目で、実際に溶接能力を左右する主要因でもあります。ただし「出力が同じ=性能が同じ」ではありません。
確認したいのは次の2点です。
- 定格出力か、最大値か——継続して出せる値なのかどうか
- 連続稼働の前提——長時間の連続使用で出力が維持される設計か
加えて、同じ出力でも発振器のメーカーとグレードによって寿命や再現性が変わります。ここは本体価格の大部分を占める部分でもあり、価格差の要因としても最も大きな変数です。
参考までに当社機の表記は、SL-1500が定格出力1,500W、SL-2000が定格出力2,000W、発振波長はいずれも1,070nmです。
2. 対応板厚|規定の取り方が2種類ある
比較で最も食い違いが起きるのがこの項目です。「対応板厚」という言葉は、少なくとも2つの意味で使われています。
当社のスペック表を例に開きます。SL-1500のカタログ規定は「溶接厚さ(シングルワイヤー)0.5〜5mm」ですが、機種選定の目安として案内している「最大対応板厚」は4mm以下です。数値が一致していません。
| 表記 | 意味 | SL-1500 | SL-2000 |
|---|---|---|---|
| 溶接厚さ(カタログ規定値) | 一回の溶接あたりの厚さ範囲 | 0.5〜5mm | 0.5〜5mm |
| 最大対応板厚(選定の目安) | 裏まで安定して溶け込む実用上の目安 | 4mm以下 | 6mmまで |
| 最大対応板厚(アルミ) | 同上。アルミは一段下がる | 3mm | 5mm |
当社はこの2つが一致しないことを製品ページに明記しています(SL-1500の仕様/SL-2000の仕様)。規定の取り方が異なるためで、どちらかが誤りというわけではありません。
ここで重要なのは、他社の資料に書かれている「対応板厚」がどちらの意味なのかは、書いていなければわからないということです。板厚で比較するときは、必ずどちらの規定かを確認してください。材質の指定がない数値も同様で、鉄・ステンレスとアルミでは実用上の上限が変わります。
3. 溶接スピード|上限値であって常用値ではない
当社機は溶接スピード0〜120mm/sと表記しています。これは装置として出せる範囲であり、どのワークでも120mm/sで溶接できるという意味ではありません。
実際の速度は、材質・板厚・継手形状・要求する品質で決まります。したがって速度をカタログの最大値で比べても、現場の生産性の比較にはなりません。
速度を判断材料にしたい場合は、自社のワークを、要求する品質で溶接したときに何mm/s出るかをテスト溶接で確認するのが実務的です。カタログ値の比較では埋められない部分です。
4. 設置条件|「導入できるか」を先に決める項目
性能に目が行きがちですが、設置条件が合わなければ、どれだけ性能が良くても導入できません。比較表の早い段階に置いてください。
| 確認項目 | なぜ効くか | 当社機(SL-1500 / SL-2000) |
|---|---|---|
| 電源 | 三相動力の増設が必要なら工事費が発生する | 単相 AC200/220V 50/60Hz |
| 質量 | 床荷重・搬入経路・移動のしやすさに直結 | 165kg/172kg |
| 外形寸法(H×W×D) | 設置スペースと搬入口の通過可否 | 930×540×925mm(共通) |
| 冷却方式 | 冷却系の構成が稼働率と維持費に直結 | 水冷 |
| 安全対策 | クラス4のため保護具・遮光は実質必須の付帯費用 | 保護メガネ・パーテーション等が必要 |
とくに電源は見落とされやすい項目です。単相200Vで動く機種と、三相動力が必要な機種では、電気工事の有無で初期費用が変わります。安全対策についてはレーザー溶接に資格は必要か(クラス4の安全管理)で詳しく整理しています。
5. 付属と消耗品|本体価格だけを並べない
本体価格が安く見えても、必要なものが別売りなら総額は変わります。比較の前に、各社の見積りが「どこまで含んだ価格か」を同じ範囲にそろえてください。
- トーチ・ノズル・保護レンズの初期同梱数——保護レンズは使用に伴い交換する消耗部品です
- ワイヤー送給機の有無——すき間のある継手を扱うなら必須級。後付けより初期構成が割安になります
- チラー・冷却水の仕様——クーラントは半年〜1年に1回程度の交換が目安です
- 据付・操作研修・保守の範囲——出張費・立会費が別建てか込みかで総額が変わります
- 保証の年数と範囲——とくに発振器の保証は寿命リスクに直結します
ランニングコストの内訳(溶接機の場合はシールドガス・電気・クーラント)と電気代の計算式は、価格相場とランニングコストの記事にまとめています。
比較表の作り直し方|4ステップ
ここまでの内容を、実際の作業手順に落とすと次のようになります。
| 手順 | やること | ここで落ちる候補 |
|---|---|---|
| ① 設置できるかで絞る | 電源・質量・寸法・搬入経路を確認 | 電気工事が必要/搬入不可 |
| ② 定義をそろえる | 出力・対応板厚・速度の規定を各社に確認 | 定義を答えられない |
| ③ 構成をそろえる | 同梱品・研修・保守を同じ範囲に統一して再見積 | そろえると価格が逆転する |
| ④ テスト溶接で確かめる | 自社のワーク・自社の要求品質で実際に溶接 | 要求品質に届かない |
①〜③はカタログと見積書の上でできる作業で、候補を絞るための工程です。最終判断は④に委ねてください。数値がそろって初めて、テスト溶接で見るべきポイントがはっきりします。
比較シート|この順で埋める
そのまま使える確認項目です。空欄が残る候補は、埋まるまで判断を保留してください。
- 電源の種別(単相/三相)と必要な電気工事の有無
- 質量・外形寸法と、搬入経路の最小幅
- 定格出力(最大値ではない)
- 対応板厚がどちらの規定か(一回の溶接厚さ/裏まで溶ける目安)と、その材質
- 溶接スピードの前提条件(材質・板厚・品質)
- 冷却方式と、冷却系の維持に必要な作業
- トーチ・ノズル・保護レンズの初期同梱数
- ワイヤー送給機の有無(すき間のある継手を扱う場合)
- 保証の年数と範囲(とくに発振器)
- 据付・操作研修・保守が価格に含まれるか
- 安全対策(保護メガネ・遮光パーテーション)の費用が見積りに入っているか
- 自社ワークでのテスト溶接に応じてもらえるか
機種の絞り込みそのものを進めたい方は、板厚・出力から選ぶ選び方ガイドもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
レーザー溶接機のカタログを比較するとき、まず何を見ればよいですか?
数値そのものより先に、その数値の「定義」を見てください。出力・対応板厚・溶接スピードはいずれも、どの条件で測った値なのかがメーカーや資料によって異なることがあります。定義が違う数値を横に並べても、比較にはなりません。まず各社の表記が何を指しているのかを揃え、その上で同じ条件の数値だけを比べるのが確実です。定義が書かれていない項目は、そのまま質問して埋めてください。
出力(W)が同じなら性能は同じですか?
同じとは限りません。出力は溶接能力を左右する主要な要素ですが、同じ出力でも発振器のメーカーやグレード、光学系、冷却の設計によって、連続で使ったときの安定性や実際の仕上がりは変わります。また、表記が定格出力なのか瞬間的な最大値なのかで意味が違います。カタログ上の出力が同じ2台を比べるときは、定格かどうかと、連続稼働を前提にした値かどうかを確認してください。
「対応板厚」はメーカーによって意味が違うのですか?
規定の取り方が異なることがあります。当社のSL-1500・SL-2000でも、カタログの「溶接厚さ(シングルワイヤー)0.5〜5mm」と、機種選定の目安として案内している「最大対応板厚(SL-1500は4mm以下、SL-2000は6mmまで)」は数値が一致しません。前者は一回の溶接あたりの厚さ範囲、後者は裏まで安定して溶け込む実用上の目安で、規定の前提が違うためです。当社は製品ページにこの違いを明記しています。板厚で比較するときは、どちらの意味の数値かを必ず確認してください。
溶接スピードの数値はどう読めばよいですか?
上限値であって、常に出る速度ではないと考えてください。当社のSL-1500・SL-2000は溶接スピード0〜120mm/sと表記していますが、これは装置として出せる範囲であり、実際の速度は材質・板厚・継手形状・要求品質で決まります。スピードを比較したい場合は、カタログの最大値ではなく「自社のワークを、要求する品質で溶接したときに何mm/s出るか」をテスト溶接で確かめるのが実務的です。
スペック表に載らない差にはどんなものがありますか?
保証の範囲と年数、消耗品の同梱数、据付・操作研修・保守が価格に含まれるか、部品の供給体制、安全対策の付帯費用などです。たとえばファイバーレーザー溶接機はクラス4レーザーに該当するため、保護メガネや遮光パーテーションは実質的に必要な付帯費用になります。これらはスペック表の数値には現れませんが、導入後の総額と稼働率に直接影響します。比較表を作るときは、数値の行の下にこれらの項目を足してください。
比較の最後は何で決めればよいですか?
自社のワークでのテスト溶接です。定義を揃えて数値を比べ、設置条件と付帯費用まで含めて総額を並べたあとでも、実際の仕上がりが要求品質に届くかどうかは現物でしか確認できません。当社では出張デモと郵送サンプルテストを承っており、うまくいかない条件もそのままお見せしています。カタログの比較は候補を絞るための作業で、最終判断はテスト溶接に委ねるのが確実です。
まとめ
レーザー溶接機の比較は、数値を並べる作業ではなく、数値の定義をそろえ直す作業です。出力・対応板厚・速度はいずれも規定の前提で意味が変わり、設置条件と付属範囲をそろえなければ総額の比較も成立しません。
当社は、自社のスペック表でも「溶接厚さ」と「最大対応板厚」が一致しないことを製品ページに書いています。隠すより、どういう規定なのかを開いたほうが、検討する側の判断が早くなるからです。同じことを、比較しているすべての候補に確認してください。
そして最後は、カタログでは決まりません。自社のワークで、要求する品質で、実際に溶接してみることです。当社では出張デモと郵送サンプルテストを承っており、うまくいかない条件もそのままお見せしています。
出典・参考
- JIS C 6802「レーザ製品の安全基準」(レーザークラス分けの根拠)
- 厚生労働省「レーザー光線による障害の防止対策要綱」(クラス4で求められる管理措置)
- 日本溶接協会 溶接情報センター「レーザ溶接の特徴とエネルギー吸収」
本記事に記載した SL-1500 / SL-2000 の数値は当社製品ページの記載にもとづきます(2026年8月時点)。他社製品の表記方法について断定的な記述は行っていません。仕上がりは材質・板厚・継手・条件により変動するため、個別の判断は実物での確認をお願いします。
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