「自社で扱う板厚には、どれくらいの出力(W)のファイバーレーザー溶接機が必要なのか」——これは導入検討で最初にぶつかる疑問です。カタログには1000W・1500W・2000Wといった出力が並びますが、その数字が「何ミリまで溶接できるか」に直結し、さらに同じ板厚でもステンレス・鉄・アルミ・銅で必要な条件が変わります。この記事では、出力(W)と板厚の関係、材質別の溶けやすさ、そして必要出力の選び方(決め方)を早見表で整理します。
数値の前提について:本記事の板厚目安は、各出典に基づく一般的な目安であり、継手形状・溶接方法(突合せ/隅肉)・材質・パス数・自動化の有無などの条件で大きく変動します。当社製品の値(SL-1500・SL-2000)は自社確定仕様ですが、それ以外はメーカーや条件によって前提が異なります。効果や仕上がりを保証するものではありません。数値の出典は記事末尾にまとめています。
この記事でわかること
なぜ板厚で出力(W)を選ぶのか
出力(W)は、単位時間あたりに材料へ投入できるエネルギー量の目安です。板が厚くなるほど「溶かして接合するために必要な熱量」が増えるため、原則として出力が高いほど厚い板に対応しやすくなります。逆に言えば、板厚に対して出力が合っていないと、次の2つのリスクが生じます。
- 溶け込み不足(出力が足りない):母材の奥まで溶けず、表面だけがつながった状態になりやすく、狙った接合強度が得られない恐れがあります。
- 過剰入熱(出力・入熱が過大):必要以上に熱が入ることで、歪み・変色・熱影響部(HAZ)の拡大・裏抜け(穴あき)などが起こりやすくなります。薄板ほど過剰入熱に敏感です。
つまり出力選定は「厚い板を溶かせるか」だけでなく、「薄い板を焦がさずに扱えるか」という両面の問題です。ファイバーレーザーは集中入熱で歪みを抑えやすいのが強みですが、板厚と出力・条件の組み合わせを外すと、その利点が損なわれます。
出力(W)別 対応板厚の早見表
以下は、複数の公開資料を参考にした鉄・ステンレス(軟鋼/SUS)を想定した一般的な目安です。あくまで条件で変動する参考値であり、実機・実サンプルでの検証を前提にお考えください。当社SL-1500/SL-2000の確定仕様も併記します。
| 出力クラス | 対応板厚の目安(鉄・SUS) | 主な用途イメージ |
|---|---|---|
| 500〜1000W級 | 〜2mm程度 | 薄板の外装・小物・精密部品 |
| 1500W級 | 〜3mm程度 (当社SL-1500=4mm以下 ※アルミ3mm) | 板金加工・中厚物の一般溶接 |
| 2000W級 | 〜5〜6mm程度 (当社SL-2000=約6mmまで ※アルミ約5mm) | やや厚めの構造部材・フレーム |
| 2000W超(3000W級など) | 多層盛り・自動機を前提に6mm超の厚板にも対応 | 厚板・量産ライン向け |
出力クラスと板厚の対応は出典によって幅があります。たとえばsmartDIYsは「1500Wで〜3mm程度、2000〜3000Wで〜6mm程度(SS・SUS基準)」とし、海外メーカーの資料ではより厚い数値を示す例もありますが、それらは自動機・多層盛り前提の可能性が高く、国内のハンドヘルド機とは条件が異なります。当社の確定値は、手持ち溶接での実用域として SL-1500=4mm以下(アルミ3mm)、SL-2000=約6mmまで(アルミ約5mm)です。なお、当社のSL-1500(1,500W)・SL-2000(2,000W)はいずれも手持ち式で、出力1kWを超える機種です。
数字の幅が生まれる最大の理由は「材質」と「継手・パス数」です。次章で材質差を、その次で板厚を伸ばす工夫を見ていきます。より広い選定観点(発振器の品質・保守など7つのポイント)はファイバーレーザー溶接機の選び方ガイドで体系的に解説しています。
材質別の違い(ステンレス/鉄/アルミ/銅)
同じ板厚でも、材質によってレーザーの「吸収率」「熱伝導率」「反射率」が異なるため、必要な出力・条件は変わります。溶接のしやすさは、おおむね次の傾向です。
| 材質 | 溶接難易度の傾向 | ポイント |
|---|---|---|
| 軟鋼・鉄 | 比較的しやすい | レーザーの吸収率が高く、安定して溶け込みやすい。 |
| ステンレス(SUS) | 比較的しやすい | 鉄同様に吸収率が高い。当社機でも実用域が広い。 |
| アルミ | やや難しい | 熱伝導率が高く(鉄の約3倍、SUSの十数倍との一般値)、熱が逃げやすい。酸化被膜の融点(約2000℃)が母材融点(約660℃)を大きく上回るのも障害。 |
| 銅・真鍮 | 難しい | 1μm帯の波長を高反射(常温固体銅で反射率90%超との報告)し、入熱が安定しにくい。 |
このため、同じ機種でもアルミや銅は対応板厚の上限が下がります。当社でもSL-1500は鉄・SUS4mm以下に対しアルミは3mm、SL-2000は約6mmに対しアルミは約5mmと設定しています。ハンドヘルド機の一般的な傾向として、アルミは最大3mm程度、銅・真鍮は最大2mm程度に制限される例も報告されています(機種依存)。アルミの板厚別の実測ビードについてはアルミのレーザー溶接 板厚実測レポートで具体的に紹介しています。
銅・真鍮・厚めのアルミなど反射・放熱の大きい材質は、出力(W)だけでなくビーム品質・出力の安定性・条件出しのノウハウが結果を左右します。「何Wなら溶ける」と一律には言い切れないため、実際のサンプルでのテスト溶接をおすすめします。
板厚を伸ばす工夫(開先・多層盛り・ダブルワイヤー)
「機種の対応板厚より少し厚い板を溶接したい」という場合、出力だけに頼らず継手設計や溶接手順で対応できることがあります。代表的な工夫は次のとおりです。
- 開先(かいさき)を取る:厚板の合わせ面を斜めに削って溝を作り、溶加材を充填します。板厚4〜5mm程度以下ならレーザーの集中入熱で開先なしでも有利ですが、10mm程度になると開先加工が推奨される、というのが一般的な目安です。
- 継手形状の工夫:突合せ・隅肉・重ねなど、継手形状によって必要な溶け込み量は変わります。強度が必要な箇所ほど設計段階の検討が重要です。
- 片面/両面・多層盛り:両面から溶接する、複数パスに分けて盛るといった手順で、実質的に対応できる板厚を広げられます。
- ダブルワイヤー(デュアルワイヤー):2本のワイヤーを送給することで溶着量を増やし、厚板の溶け込み・接合強度を高める手法です。当社SL-2000はダブルワイヤー0.5〜5mm対応で、厚めの板に強みがあります。
実際に、対応板厚の上限を少し超える板厚でも、開先や多層盛り・ダブルワイヤーを併用することで実用的な溶接ができたという事例もあります。ただしこれは特定機種・条件下の一例であり、溶け込みや強度が常に同じように得られるわけではないため、実サンプルでの確認が前提です。ダブルワイヤーの仕組みと効果はSL-2000のダブルワイヤー溶接で詳しく解説しています。
必要出力の決め方(現状+将来)
出力選定の基本は、「今扱っている最大板厚」と「今後扱う可能性のある板厚」の両方から考えることです。以下のステップで整理すると迷いにくくなります。
- 現状の最大板厚を洗い出す:頻度の高い板厚ではなく、対応が必要な最も厚い板を基準にします。
- 主な材質を確認する:アルミ・銅が多いなら、鉄基準の早見表より上限が下がる前提で余裕を見ます。
- 将来の板厚見込みを足す:受注拡大や新規案件で厚板が増える可能性があれば、一段上の出力クラスも比較検討します。
- 実サンプルでテスト溶接する:カタログの板厚は目安です。自社の実部品でビード・溶け込み・歪みを確認してから決めるのが確実です。
「出力に対して極端に安い機種」には注意も必要です。発振器(最重要部品・世界に約300社で品質差大)の出力安定性やビーム品質、保守・部品供給体制はスペック表の板厚数値には表れにくいためです。国産と海外製の価格差や見極め方は価格・ランニングコストの解説記事で整理しています。TIG/MIGとの厚板対応の違いを知りたい場合はTIG/MIGとの比較記事もあわせてご覧ください。
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ファイバーレーザー溶接機は最大何ミリまで溶接できますか?
ハンドヘルド機の一般的な加工可能板厚は0.5〜6mm程度が目安とされます。当社ではSL-1500が4mm以下(アルミ3mm)、SL-2000が約6mmまで(アルミ約5mm)です。開先・多層盛り・ダブルワイヤーなどの工夫でさらに厚い板に対応できる場合もありますが、いずれも条件で変動するため実サンプルでの確認をおすすめします。
1500Wと2000Wでは対応板厚はどのくらい違いますか?
鉄・ステンレス基準の一般目安では1500W級が〜3mm程度、2000W級が〜5〜6mm程度とされます。当社の確定値ではSL-1500=4mm以下、SL-2000=約6mmまでです。出力が上がるほど厚板に対応しやすくなりますが、材質や継手形状でも変わります。
ステンレスとアルミではレーザー溶接できる板厚は違いますか?
はい、違います。アルミは熱伝導率が高く(鉄の約3倍との一般値)、酸化被膜の融点も高いため、同じ機種でも対応板厚の上限は下がる傾向です。当社機でもSL-1500は鉄4mmに対しアルミ3mm、SL-2000は約6mmに対しアルミ約5mmと設定しています。
レーザー溶接で銅は溶接できますか?
可能な場合もありますが、銅・真鍮はファイバーレーザーの波長(約1μm帯)を高反射(常温固体銅で反射率90%超との報告)するため入熱が安定しにくく、難易度が高い材質です。対応板厚も他材質より制限される傾向があります。銅系のワークは事前のテスト溶接での確認が重要です。
出力が板厚に対して足りないとどうなりますか?
母材の奥まで溶けない「溶け込み不足」となり、表面だけがつながって狙った接合強度が得られない恐れがあります。逆に薄板に対して入熱が過大だと、歪み・変色・裏抜けなどが起こりやすくなります。板厚に合った出力・条件を選ぶことが、両方のリスクを避ける前提になります。
出典・参考
本記事の一般目安は以下の公開情報を参考にしています。当社製品仕様(SL-1500/SL-2000)は自社確定値です。
- smartDIYs「失敗しないレーザー溶接機の選び方」
https://www.smartdiys.com/support/qa-product/slw1500/laser-welder-selection/ - 筐体設計・製造.COM「ファイバーレーザー溶接と材質の対応表」
https://www.large-scale-plating.com/knowledge/ファイバーレーザー溶接と材質の対応表/ - 光響 オプティペディア「アルミニウムや銅のレーザ溶接最適化テクニック」
https://optipedia.info/industrial-laser/japan2021_04_4/ - 株式会社マツダ「アルミの特性と溶接が難しい理由」
https://www.k-matuda.co.jp/column/1907/ - UW-J「YAGレーザー、ファイバーレーザーの対象材料について」
https://uw-j.co.jp/laser-material/ - ウエルドツール「ファイバーレーザー溶接機の溶け込みについて」
https://www.weldtool.jp/article/yousetsu-sozai/9618 - NKクリプトン 製品仕様(SL-1500/SL-2000)
https://fiberlaser-sirius.com/#features
※記載の板厚・材質の数値は一般的な目安であり、継手形状・溶接方法・材質・パス数・自動化の有無などの条件で変動します。効果・仕上がりを保証するものではありません。実導入前には実部品でのテスト溶接での確認をおすすめします。
▶ あわせて読む:ファイバーレーザー溶接機の選び方ガイド(7つの選定ポイント)