溶接技術 材質別ガイド

ステンレスのレーザー溶接|ひずみ・焼け・気孔(ポロシティ)は防げるのか

ハンディファイバーレーザー溶接機による薄板・金網・箱物の溶接ビード例

ステンレスの溶接で現場が気にするのは、「くっつくかどうか」ではありません。板が反っていないか、溶接部に巣(気孔)が入っていないか、焼けた部分から錆びてこないか——仕上がりと、その後の品質です。

レーザー溶接は「ひずみが少ない」「きれい」と紹介されがちですが、条件を外せばステンレスでも気孔は出ますし、焼けもゼロにはなりません。この記事では、ハンディファイバーレーザー溶接機 SL-1500 / SL-2000 を扱う当社が、ステンレス溶接で心配される3点についてなぜ起きるのか・どこまで抑えられるのか・何をすればよいのかを整理します。

この記事の位置づけ:本記事は一般的な技術知識にもとづく整理で、当社によるSUS304の実測データを示すものではありません(アルミについては板厚別の実測記事で断面写真を公開しています)。仕上がりは材質・板厚・継手・条件で変わるため、判断の最終根拠には実際のワークでのテスト溶接をおすすめします。ステンレスのテスト溶接も承っています。

結論:3つの不安は「ゼロにはならないが、抑えられる」

まず全体像です。ステンレスはレーザー溶接に向いた材料ですが、無条件にきれいになるわけではありません。

心配される点実際のところ主な対策
ひずみ(反り・波打ち)TIGより大幅に小さいが、ゼロではない溶接順序の分散・治具での拘束・断続溶接
気孔(ポロシティ・巣)アルミほど出やすくないが、条件を外せば出る脱脂などの前処理・シールドガス・条件出し
焼け(テンパーカラー)幅は狭いが発生する。耐食性に影響し得るシールドガス+用途に応じた焼け取り

以下、それぞれを順に見ていきます。板厚と出力の関係そのものは出力(W)と板厚の早見表にまとめてあるので、「何ミリまで溶接できるか」を先に知りたい方はそちらをご覧ください。

そもそもステンレスはレーザー溶接に向いているのか

向いています。理由はレーザーの吸収率と熱伝導率の2点です。

ファイバーレーザーの波長(1μm帯)に対して、ステンレスは比較的吸収率が高く、当てたエネルギーが溶融に使われやすい材料です。また熱伝導率がアルミや銅より低いため、入れた熱がまわりへ逃げにくく、狙った位置に熱を集められます。アルミのように「母材より酸化被膜の融点がはるかに高い」という厄介さもありません。

実務上の裏づけとして、当社のハンディ機でも鉄とステンレスは対応板厚の上限が同じです(SL-1500が4mm、SL-2000が約6mm)。アルミだけは3mm・約5mmと一段下げています。材質による溶接しやすさの序列は、おおむね次のとおりです。

材質レーザー溶接のしやすさ理由
軟鋼・鉄しやすい吸収率が高く安定して溶け込む
ステンレス(SUS)しやすい吸収率が高く、熱伝導率が低いため熱が逃げにくい
アルミやや難しい熱伝導率が高い・酸化被膜の融点が母材より大幅に高い
銅・真鍮難しい1μm帯を強く反射し入熱が安定しにくい

ひずみが小さいのはなぜか

ステンレスは炭素鋼より熱膨張率が大きく、もともとひずみやすい材料です。TIG溶接で薄板のステンレスを溶接すると、板が波打ったり、箱物の角が引かれて寸法が狂ったりします。

レーザー溶接でひずみが小さくなる理由は単純で、入れる熱の総量が少ないからです。ビームを小さな点に絞り、必要な部分だけを短時間で溶かすため、母材全体の温度上昇が抑えられます。熱影響部(HAZ/溶けてはいないが熱で組織が変わる範囲)の幅も狭くなり、その結果として熱による伸び縮みの量が減ります。

ただし「レーザーだからひずまない」ではありません。薄板を長い距離で一気に連続溶接すれば、レーザーでも波打ちは起こります。溶接順序を左右に振り分ける、治具でしっかり拘束する、連続ではなく断続で入れる——こうした基本のひずみ対策は、レーザーでも同じように有効です。

TIG・MIGとの項目別の違いはレーザー溶接とTIG/MIGの比較で詳しく扱っています。

気孔(ポロシティ・巣)は出るのか

結論として、条件が合っていなければ出ます。ステンレスはアルミほど気孔が出やすい材料ではありませんが、「レーザーなら巣が入らない」というのは誤解です。

主な原因は次の3つです。

  1. 1

    シールドガスの不足・乱れ

    溶融池が大気に触れると、大気中の酸素・窒素を巻き込んで酸化や気孔の原因になります。ガス流量が足りない、ノズルの角度が悪い、風が当たる場所で作業している、といった環境要因でも起こります。ステンレスでは一般にアルゴンが使われ、酸化防止・スパッタ低減・ビード外観の改善を担っています(日本溶接協会の解説)。

  2. 2

    母材表面の油分・水分・汚れ

    加工油、切削液、結露、指の脂などが溶接時に分解・気化し、ガスとなって溶融金属に閉じ込められます。前処理(脱脂・清掃)で防げる部分が大きいのがこの原因です。

  3. 3

    キーホールの不安定な挙動

    レーザーが深く溶け込むときにできる細い穴(キーホール)が不安定に揺らぐと、その底が閉じ込められて気孔になることがあります。出力・速度・焦点位置の条件出しで安定させます。

逆に言えば、気孔の多くは前処理と条件出しで減らせます。要求品質が厳しい部品では、テスト溶接の段階で断面や外観を確認し、必要な水準に届いているかを見てから量産条件を決めるのが確実です。

焼け(テンパーカラー)と耐食性の関係

ステンレスを溶接すると、ビードの周囲が金色〜青紫に変色します。これがテンパーカラー(焼け)で、高温になった表面が空気中の酸素と結びついてできる酸化被膜による色です。

ここで押さえておきたいのが、焼けは見た目だけの問題ではないことです。ステンレスが錆びにくいのは、表面にできるごく薄いクロム系の被膜(不動態被膜)が母材を守っているからです。ところが溶接の高温で酸素と反応すると、この薄い被膜が厚い酸化被膜に置き換わり、本来の耐食性が損なわれます日本ステンレス協会の解説)。腐食条件の厳しい環境では、焼けた部分から錆びが始まることがあります。

レーザー溶接は加熱される範囲が狭いため、焼けの幅も狭くなる傾向があります。ただしゼロにはならず、「レーザーだから焼け取りが要らない」とは言えません。基本の対策はシールドガスで溶融部と高温部を大気から守ることで、そのうえで用途に応じて焼け取りを行います。

焼け取りの選択肢

焼けをどう処理するかは、その部品が置かれる環境と、意匠を問われるかどうかで決まります。主な方法は次のとおりです。

方法特徴向く場面
酸洗い(酸洗ペースト・液)酸化被膜を化学的に除去し、不動態被膜の回復も期待できる耐食性を戻したい部位
電解研磨・電解研磨式の焼け取り機通電と電解液で局所的に処理。仕上がりが安定しやすいビード周辺をピンポイントで処理したい場合
機械研磨(ベルト・ディスク・不織布)設備が身近。ただし削るため表面が変わり、番手の管理が要る意匠面の仕上げを兼ねる場合
レーザークリーナー非接触で酸化スケール・汚れを除去。薬品や研磨材を使わない。溶接焼けの除去はレーザークリーナー各社が用途として挙げている薬液の管理や廃液処理を避けたい現場

酸洗いや電解研磨は焼け取りの方法として確立している一方、薬液の管理・廃液処理・作業者の安全対策が伴います。そこを避けたい現場では、レーザーで酸化被膜や汚れを飛ばす方法も選択肢になります。仕組みと適用範囲はレーザークリーナーとは|サビ・黒皮・塗装剥離を非接触除去で解説しています。

注意:焼け取りは方法によって、除去できるもの・仕上がり・耐食性の回復度合いが異なります。「変色が消えた=耐食性が元どおり」とは限りません。耐食性が要求される部品では、採用する方法で処理した現物が要求仕様を満たすかを必ず確認してください。とくにレーザーによる焼け取りを検討する場合は、酸洗いなど従来手法と同じ耐食性が得られるかを、実際のワークで比較評価することをおすすめします。

薄板ステンレスで現場が実際に困ること

0.5〜3mm程度の薄板では、ひずみ・気孔・焼けとは別に、次のようなつまずきがあります。

すき間対策としてのワイヤー送給は、SL-2000のダブルワイヤー溶接で実際の溶接の様子を紹介しています。

SUS304・SUS316・SUS430の違い

「ステンレス」とひとくくりにされますが、系統によって溶接時のふるまいが変わります。現場で押さえておく範囲では次のとおりです。

鋼種系統溶接時の傾向
SUS304オーステナイト系最も一般的で溶接しやすい部類。熱膨張率が炭素鋼より大きくひずみは出やすい
SUS316オーステナイト系モリブデンを含み耐食性が高い。溶接性はSUS304に準じる
SUS430フェライト系熱膨張率が小さくひずみは出にくいが、熱影響部の結晶粒が粗くなりやすく靭性の低下に注意

もうひとつ、オーステナイト系で知られるのが鋭敏化です。おおむね500〜850℃の温度域に留まるとクロム炭化物が結晶粒界に析出し、その周辺のクロムが欠乏して粒界から腐食が進みやすくなる現象で、対策としては低炭素グレード(SUS304L・316L)や安定化グレード(SUS321・347)を選ぶ方法が一般的です(日本溶接協会の解説)。

レーザー溶接は入熱が小さく冷却が速いため、この温度域に留まる時間が短くなり、理屈のうえでは鋭敏化に対して有利に働きます。ただし当社としてこれを裏づける定量データを持っているわけではありません。耐食性の要求が厳しい用途では、鋼種・板厚・継手ごとに実物で確認することを前提にしてください。

導入前チェックリスト

ステンレスを主に扱う現場で、テスト溶接を依頼する前に整理しておくと話が早い項目です。

これらが埋まっていれば、テスト溶接で見るべきポイントがはっきりします。埋まらない項目はご相談ください。

よくある質問(FAQ)

ステンレスはレーザー溶接に向いていますか?

向いています。ステンレスは1μm帯のファイバーレーザーの吸収率が比較的高く、熱伝導率もアルミや銅より低いため入れた熱が逃げにくく、安定して溶け込みを得やすい材料です。アルミのように酸化被膜の融点が母材より極端に高いという難しさもありません。実際、当社のハンディファイバーレーザー溶接機でも鉄とステンレスは対応板厚の上限が同じ(SL-1500は4mm、SL-2000は約6mm)で、アルミだけ一段低く設定しています。

レーザー溶接ならステンレスのひずみは出ませんか?

「ゼロになる」ではなく「大幅に小さくできる」が正確です。レーザー溶接はビームを絞って必要な部分だけを短時間で溶かすため、TIG溶接に比べて総入熱量が少なく、熱影響部(HAZ)の幅も狭くなります。母材全体の温度上昇が抑えられる結果、熱による伸び縮みが減り、ひずみも小さくなります。ただし薄板を長い距離で連続溶接すれば波打ちは起こり得ます。溶接順序を分散させる、治具で拘束する、断続的に溶接するといった基本的なひずみ対策は、レーザーでも有効です。

ステンレスのレーザー溶接で気孔(ポロシティ)は発生しますか?

条件が合っていなければ発生します。ステンレスはアルミほど気孔が出やすい材料ではありませんが、主な原因は①シールドガスの不足や乱れによる大気の巻き込み②母材表面の油分・水分・汚れ③キーホール(レーザーが空けた深い穴)の不安定な挙動、の3つです。逆に言えば、脱脂などの前処理・適切なシールドガス・条件出しで大きく減らせます。溶接後に断面や外観で確認し、要求品質に足りているかを見るのが確実です。

溶接部の「焼け」(変色)は避けられますか?

完全にゼロにするのは難しいものの、範囲は小さくできます。焼け(テンパーカラー)は高温になった金属表面が空気中の酸素と結びついてできる酸化被膜による変色で、レーザー溶接は加熱範囲が狭いぶん焼けの幅も狭くなる傾向があります。シールドガス(一般にアルゴン)で溶融部と高温部を大気から守ることが基本の対策です。ただし「レーザーだから焼け取りが不要」とは言えません。意匠面や耐食性が要求される部位では、焼け取りを前提に工程を組んでください。

焼けを取らずに使うと問題がありますか?

使用環境によります。ステンレスの錆びにくさは表面のクロム酸化被膜(不動態被膜)に支えられていますが、溶接時の高温で生じたテンパーカラーの部分はこの被膜の状態が変化し、元の耐食性が損なわれることがあります。屋外・水回り・薬品環境など腐食条件が厳しい用途では、酸洗いや電解研磨などの焼け取りを行い、不動態被膜を回復させるのが一般的です。屋内の乾いた環境で意匠も問われない部位なら、そのまま使われることもあります。

ステンレスの種類(SUS304・SUS316・SUS430)で溶接性は変わりますか?

変わります。SUS304とSUS316はどちらもオーステナイト系で溶接しやすい部類ですが、熱膨張率が炭素鋼より大きいためひずみは出やすい傾向があります。SUS316はモリブデンを含み耐食性が高く、溶接の扱いはSUS304に準じます。一方SUS430はフェライト系で、熱膨張率が小さくひずみは出にくい反面、溶接の熱で熱影響部の結晶粒が粗くなりやすく、靭性の低下に注意が必要とされています。どちらが優れているかは用途と要求性能によるため、材質が混在する現場では鋼種ごとに条件を分けて確認してください。

まとめ

ステンレスはレーザー溶接に向いた材料です。ひずみはTIGより大幅に小さく、気孔は前処理と条件出しで抑えられ、焼けは幅が狭くなる——ただしいずれも「ゼロになる」ではなく「条件を整えれば抑えられる」性質のものです。

そして、抑えられているかどうかを最終的に確かめる方法はひとつしかありません。自社のワーク・自社の要求品質で、実際に溶接してみることです。当社ではステンレスを含むテスト溶接を承っており、仕上がりだけでなく、うまくいかない条件もそのままお見せしています。

機種の選定に進む方は選び方ガイド、導入時の安全体制についてはレーザー溶接に資格は必要かをあわせてご覧ください。

出典・参考

本記事の技術的記述は上記の公開資料および一般的な溶接工学の知見にもとづきます(2026年8月時点)。数値を伴う効果は材質・板厚・継手・条件により変動するため、個別の判断は実物での確認をお願いします。

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